ウィルコムの高度化PHS「W-OAM」が始まってから、まもなく丸2年が経過します。
またW-OAM対応音声端末が投入され始めてからも1年ほど経過し、現状のウィルコム端末は音声端末もデータ端末も基本的にW-OAM対応となってきています。

W-OAMは接続している基地局がW-OAMに対応している場合に、電波状況が良い時には現行PHSのQPSK(1x32K)よりも高速な8PSK(1x51K)で通信を行い、電波状況が悪い場合には低速だがQPSKよりも安定して接続可能なBPSK(1x13K)で接続を自動的に行う変調方式です。
このW-OAMの導入によりデータ通信はより安定した状態での通信が可能となり、実質的な音声通話可能エリアも今まで以上に広がっており、多くのウィルコムユーザーが接続性の向上と高速化を体験しています。

しかし一部で以下のようなことも報告されています。
「WX310SAからWX320Tに機種変更したら繋がりにくくなった。今までQPSKで普通に通話できていたのに、BPSKで繋がるらしく音質が下がった。」
、という報告です。
この報告をしたユーザーはW-OAMにより音質が低下したというような旨の発言もしており、その発言内容を受けてW-OAMを危惧するコメントなども寄せられていたようです。

音声通話に高度化PHS「W-OAM」が導入されることによって、本当に従来よりも音質が低下するのでしょうか。
あるいはそこには何らかの誤解が含まれているのでしょうか。

音声通話におけるW-OAMは、従来の音質となるQPSK(32K)と、音質は下がるもののQPSKよりも通話可能エリアが広がるBSPKの2つから成り立っています。

QPSKで問題なく通話出来るエリアでは、現行PHSでもW-OAMでもQPSKの32Kbpsでの音声通話を行っていると思われます。
またQPSKでの通話が不可能なエリアについては、W-OAMはBPSKで可能な限りの接続を試みることでしょう。
問題はQPSKでの接続が不可能ではないが、安定した接続が出来ないようなエリアです。

QPSKでの接続が安定しないエリアと言っても、ポツポツと切れることが目立って会話を続けることが難しいレベルから、QPSKでほとんど普通に通話できるが注意して聞くとたまに接続が怪しいことがある場合までかなりの差があると思われます。

前者の場合はまず間違いなくBPSKでの接続が行われることでしょう、オールBSPKとは言わないまでもその比率は少なくないはずです。
この場合ユーザーは「今まで通話が難しかったのに通話できるようになった」と評価するはずです。

では後者の場合はどうでしょうか。
もしW-OAMのQPSKとBPSKとの切り替えがQPSKでの接続が出来なくなった瞬間に行われるのであれば、ユーザーは音質が下がったと感じることは無いでしょう。QPSKで接続できていない部分だけをBPSKで補うわけですからね。
しかより安定した通信を持続するという目的では、QPSKでの接続が出来なくなった瞬間に切り替えるよりも多少の余裕をもって切り替えを行う可能性があるでしょう。とすると、接続がある程度困難になってきた時点でQPSKからBPSKへと切り替えより安定した接続性の維持をしている可能性があり、その結果ユーザーが現行PHSでのQPSKのみの通話に比べて音質が下がったように感じる可能性もあります。

以上のように考えると、現行PHSのQPSKのみでの音声通話と高度化PHS「W-OAM」における自動変調での音声通話では、QPSKでの通話のタイミングが同じとは限らないと言えるようです。
また昨今のウィルコム端末の多くはアンテナレスになってきており、その辺りの影響もゼロとは言えないでしょう。
とすると中身がほぼ同じとも言われているWX310SAとWX310Tとは言え、WX310SAでQPSK通話が出来たからといってWX320TでもQPSKでの通話が出来るとは限らないのはむしろ当然であるとも言えます。
ただここで誤解してはいけないのは、W-OAMにおいてBPSKでの通話へと切り替わるエリアは、QPSKでの通話が完全ではないエリアであるということです。

BSPKでの通話となるエリアには、QPSKでの接続に何らかの問題があると思われます。
とするとそれは音質が低下したということではなく、より安定した音声通話接続を維持した結果なのでしょう。
今回の一部で言われている問題はウィルコムにおける情報発信の不足にも一因があると思われます。
ユーザーがその辺りを誤解しないように、ウィルコムにはよりいっそう周知を図ってもらいたいものです。