肉食について~イルカから考える人の食文化~ その4 高等生物とは何か

捕鯨問題でしばしば言われる事に、
「高い知能をもつ高等生物を食べることは残酷だ」
というモノがある。
だがその論争はしばしば感情論に陥ることがあり、実のところはっきり見えないことが多い。
実際のところ、高等生物とはどういうことなのだろうか。

イルカが高い知能をもつ理由によくあげられるものに、音波によるコミュニケーションがある。
つまりイルカは声(正確には人には聞こえない超音波を含む音波)を発し会話する、ということだ。
やや飛躍的に表現するならば、「声も出せるし会話もする高い知能をもつ生物、それがイルカ」ということであり、この点が「会話が出来る程の高い知能をもつイルカを食べることは残酷だ」に繋がるのだと思う。
だがその考えは少し早計ではないだろうか。

言葉を発する生き物、それは人に驚きを与え親近感を覚えさせることには十分な存在だ。
しかしそれができる、ということは必ずしも高い知能をもっている証拠とはならない。

言葉を発する生き物として有名なものにインコがある。
インコには大小さまざまな種類がおり、また当然のように個体差もあるのだが、他の鳥に比べて遥かに人間の言葉を発するケースが多いことは周知のことであろう。
だが彼等は、言葉を会話の為に発しているのであろうか?

「オウム返し」という言葉がある。「相手の言った言葉通りに言い返す」、という意味だ。
インコの仲間の多くは人の言葉を覚え発することが可能である。
しかしながら多くの場合、それは「オウム返し」的に発しているだけであり、言うならば会話と言うよりも人間の世界で暮らして覚えた鳴き声、ともいえるのだ。
では「オウム返し」的に言葉を発するのインコは知能の高いのだろうか?
それには「言葉を発するということだけでは高い知能をもっているとは言いきれない」という辺りが妥当であろう。
実はこのことを考える時、ある鳥の存在を忘れてはいけない。
その鳥とは「ヨウム」というオウムの1種である。

最高に格好いいペット(Eulen:::5/27)
ヨウムはインコの中でも特に会話能力が高いと言われている。
上記リンク先にもあるように、人の発した言葉を理解して、それに対して自分で考えて話すことが可能なのだ。
個体差もあるものの、一説によると1000語の単語を覚え、名詞の意味するところを理解するだけでなく、動詞などの意味も理解でき、6歳児程度の会話能力を有するという。
これは言い換えるならば、ヨウムは言葉を発する器官を有し、さらには人との会話を「覚える」だけでなくその意を「理解できる」能力を持ち合わせ、なおかつその環境に適応しようとしている、ということなのだろう。
ヨウムのもつその能力は全てのインコのみならず、地上のどの生物よりも遥かに高い能力である。恐らくヨウムはこの地球上で、人間の次に言葉(人間語)が理解し使いこなすことができる人間の次に高度な生き物なのだろう。

つまり「会話ができる高い知能」という意味では、言葉を発せられるかどうかよりも、意味のある言葉の応答が出来るかということが大事なのである。
これは会話以外のコミュニケーションでも同様だ。

生き物は互いにコミュニケーションをとって暮らしている。
多くの生き物は繁殖期に異性を呼ぶ鳴き声を発し、自分の縄張りに侵入者が来れば威嚇の鳴き声を発する。
ホタルは光でコミュニケーションをとり、ハチはダンスで蜜のありかを仲間に知らせる。
つまりコミュニケーションを行うこと自体は高い知能があるかどうかとはそれほど関係なく、多くの生き物が生きる為に行っている当たり前のことなのである。
では何が高い知能の表れなのだろうか?
それは自分の意志を伝える為にコミュニケーションをとっているか、ということではないかと私は考える。

話をイルカに戻そう。
イルカが鳴き声を発し仲間とコミュニケーションをとること、そのこと自体は疑うべくもないことである。
問題はそれがどの程度のものなのか、という点だ。

イルカは音声を使って直接他のイルカと情報のやりとりをしているという。
そのことから少なくとも、イルカが発するモノは「オウム返し」ではないだろうことは想像に難くない。
ただ人間並に複雑な会話があるか、といえばNOと言わざるを得ない部分がある。
「実験で複雑な会話をした」という報告がないわけではない、しかしそれは前述のヨウムレベル以下での話である。もっとも、人の言語を基準に人以外の言語体系を論ずること自体無理があるのだが…人の言語を基準に考えればイルカの言葉は特定の単語や状況を現す言葉を理解できるぐらい、犬と同程度でないかと私は思うのだ。
つまり言葉という視点から見れば、動物的にはイルカは高い会話能力をもっていると言えなくもないが、イルカが人間並みの会話ができる際立って高い知能をもつ生き物という証明には必ずしもならないのだ。

しかしながら誤解をしないで欲しい。
イルカに高度な知能があること自体は間違いないことだと私は考えている。
それは、イルカ愛好家たちが認めたくない事例からわかることだ。

生態について(Wikipedia イルカのページ)
イルカの凶暴性と残虐性(ぷらり途中下車の日々7/19)
イルカは愛らしい生き物か(mutter away12/7)
バンドウイルカは自分等より小型のネズミイルカを殺すことがある。それもエサとしてでなく、ただ単に殺すのだ。
これは人間にはショックなことだと思う、普通野生生物はエサとする以外に生き物を殺す、ということはないのだから。
しかしながら事実として、バンドウイルカは生きる為ではなくネズミイルカを殺している。

理由は幾つか考えられる。
先ずは遊びとしていたぶっているという可能性、これはネコなどでもよく見られることだ。
ネコがネズミやスズメなどを捕った時、それを殺さずにいたぶることがよくある。たぶん彼等にしてみれば楽しく遊んでいるだけなのだろうが、ネズミにしたらたまったもんではないだろうし、自分の飼い猫がやっていたら一思いにトドメを刺して食って欲しいと思ってしまうが、ネコは往々にしてそのような行動をとるものなのだ。
そして私たちの身近には、ネコよりもそれをよくする生き物が暮らしている。
我々人間だ。
人間の大人は理性や道徳などにより、無闇な殺生など行わない。しかしながら「不快害虫」などのくくりで有益虫も根こそぎ殺し、安易な気持ちでペットを飼って放り出す、人間こそもっとも他の生き物を殺す生き物なのだ。
また子供なら別の意味でなおさらである。無邪気な子供は、その無邪気さ故に虫を潰しカエルを投げつける。だからこそ子供は善も悪もない純粋な存在であり、またある意味では餓鬼でもあるのだ。昨今の動物虐待や殺人事件の増加などは、良くない意味で大人になれずに餓鬼風情に堕ちた人間が増えている、ということなのだろう。
高等と呼ばれる知能をもつ生き物は、良くも悪しくも遊びの一環として殺生をする可能性が高い。
そういう意味で言えば、バンドウイルカは紛れもなく高等生物の1つであると言える。

またバンドウイルカは子殺しも行うという。
これは多くの人にはショッキングな話であろうが、無闇に他の生き物を殺すことよりははるかに理解しやすいと思う。
ライオンは群れのボスになると、自分の血を引かない子供を噛み殺して自分の子孫を残そうとする。
クマなどはメスが子連れの場合、発情を促がす為に子供を殺して自分の子孫を残そうとする。
それらと同じ理由で、イルカが子供を殺して自分の子孫を残そうとする可能性は十分に存在する。
このことはその生物の社会によっても大きく違ってくることではあるが、少なくとも高等哺乳類であることだけは確かであろう。
しかしながら前述のネズミイルカのことも考えると、単に自分の遺伝子を残す為の子殺しなのかは断定しかねる。

他にはいるかが人を襲った話がある。イルカの逆鱗に触れたか、あるいはイタズラをして人に危害を加えたのかわかり兼ねるが、少なくともエサとしての捕食行為ではないはずだ。
仮に高い知能があれば、いじめ行為に近い感覚で人間で遊んだ、ということも考えられる。

またリンク先にない話では、イルカのオスがメスを取り囲み輪姦した話などもある。
子供を殺し、メスを長期間群れで拉致状態にし、諦めたメスを繰り返し犯す、という話である。
この場合遺伝子を残す行為としてはどうなのだろうと思う部分があり、むしろ人間のオスが行う低俗な行為に近いと思う方がムリがない。
これを言い換えるなら、子孫を残すだけの生殖行為でなく人やボノボが行うような快楽としてのSEXが存在する可能性であり、またその方法からは単に性欲(もしくは破壊衝動)を満たすだけの高等生物としては低い部類の行為をする程度の生き物、ということでもある。

これらのことを考える時、イルカの姿はどう見えるだろう。
イルカという生き物は、多くの人間が思うような優しく自愛に満ちた天使のような生き物ではない、
高い知性をもつが、クマやタヌキと同じ獰猛な面ももつ野生動物でしかないのだ。
では他の生き物はどうなのだろうか?

例えば犬はどうであろう。
犬は言葉を発することはない。しかしながら人の言葉を覚えることもあるし、人の心を察することもできるように思える。
それは人間の忠実なパートナーとしての姿である。
また見方を変えるならば、犬は人よりも遥かに高い能力をもつ高等生物である。その嗅覚は人を遥かに凌駕し、人の感じぬ様々なことに敏感に反応する。
それは人を超えた優れた生物としての姿である。
そして時と場合によっては、その野生の本能を垣間見せる。鋭い牙をむき敵に襲いかかる、そこには愛玩動物としての姿はない。
それは獣としての、普段は見せぬ野生の姿である。

例えば豚はどうであろう。
豚は犬と同程度の知能があると言われている。言葉を覚え芸もこなす、人にも慣れ人と共にあろうとする。
それは愛玩動物としての姿である。
豚は食肉として多く育てられる。彼等の食性と繁殖力は食肉育成としては効率的であり、人の食欲を癒してくれる。
それは人の喰らう為の生き物としての姿である。
豚は命果てる時、泣き悲しむという。己の命の終焉を知り泣きながら命果てる、そして食肉へと処理されていく。
それは人が喰らう加工された肉としての姿である。

要はそういうことだと思う。
どんな生き物でも切り口次第で如何様にも見える。高度にも低脳にも見え方は変わり、またその行動1つだけを見るならば残虐にも心優しくにも見えるのだ。
そしてどんな生き物でもその生き物の心なりに、死ぬ事を哀しみ抗おうとする。
そういった他の生き物の命の犠牲の上に、人は生きているのだ。

様々な事実から、イルカに高い知性があることは間違いないだろう。
しかしそれは他の哺乳類の多くが持ち合わせているものであり、何もイルカが特別高い知能をもつとはいえないと思う。と同時に、人は所詮、他の生き物の心はわからないかも知れない、ということも忘れてはいけないのだと思う。
それらのことを受け入れることが、本当の意味での高等生物が何かを考える始まりではないだろうか。

つづく

▼イルカシリーズ▼
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その0
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その1 イルカ漁は虐待行為か
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その2 イルカ漁の問題点とその方向性
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その3 続・イルカ漁の問題点とその方向性
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その4 高等生物とは何か
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その5 イルカの畜産生物としての適性について
肉食について~イルカから考える人の食文化~ その6 心と命

3件のコメント

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    TBありがとうございました。
    肉、好きなんですょ。( ´∀`)
    かわいい子牛や子羊のお肉も好きです。
    競馬が好きだったこともありますが、馬肉食べるのも好きです。馬は結構知能が高いですね。犬と同じくらいかな。
    でも、自分で牛や豚や馬を飼ったら、それを潰すのは抵抗あるでしょぅね。
    だいたいが、エビの踊り食いとかも不得意だし、たぶん自分で手を下すのがイヤなんでしょう。
    そういや、イルカ食べたことあります。静岡の人と付き合ってた時分に。
    豚の角煮みたいなお料理で、味も豚系でした。ちょっと脂臭くてくどい豚肉って感じだったかな。

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    イルカがイルカを襲うという話を私も読みました。
    生きている以上、残虐でないなんてことはなく、
    それは当然のことであると思います。
    そして、私だって毎日食べてますから。
    昔は問題にならなかったこの手の話は「人」が「生物」を
    食べているという認識が薄れているというのもあるのでは
    と思っています。
    刺身は食べるけど魚は気持ち悪いから触らないとか、
    石焼芋は食べるけど芋は掘ったことがないとか・・・
    そういう中で過剰に反応する人や団体があると、それに反論
    するだけの知識もなく、乗ってしまうということがあるので
    しょう。
    話は変わりますが・・・
    凄い情報収集力ですね。。。
    ちょっと教えてくださいよぉー(笑)

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    >よ。
    はじめまして、肉食管理人りうかですm(。。)m
    おらのばさまの話ですが、昔(60年前)はニワトリとかは自分の家で飼っていて、お祝い事とかあると首を落として料理したそうです。
    するとよく首を切りそこねて半分ブラブラ状態でニワトリが逃げ出し、またかと思いつつ捕まえにいったそうです。
    今の人にしてみればショッキングかも知れませんが、でも今も食肉工場とかで行われていることなんですよね。
    スーパーに並んでいる肉を見るとなかなか想像し辛いけれど、そう言ったことを忘れずにいることは大事だとおらも思います。
    >メド
    いつもどももですm(__)m
    まぁあれです、とりあえずみんなでサバでも1匹丸ごとから3枚にしてみるといいんすよ。
    腹割いて内臓とりだし頭落として3枚にする、どれだけ血や臓物がとれることか。
    それに対してどう思うかは個人のアレとして、生きるってけっこうそういうことなんだと思います。大事に食べましょう。
    それが嫌なら日光浴びて光合成で暮らすべし(=ω=。
    情報はアレですよ、おらの言ってる辺りは実際にはけっこう大した事ないだす。
    ただおら今までの育ちが良くないと言うか何と言うか…丸ごと知ってもそれをさらに咀嚼しないと気がすまないんです。
    それに情報って、けっこう一方向からしか見てないのよね。
    そういう情報のパズルを重ねてあとは自分で判断、です。
    とりあえずあれです、自称ジャーナリストなライ○ドアパブリックジャーナリスト(仮名)には負けないつもりだす(=ω=。
    まともな記事もあるにはあるが、ほとんどが独りよがりの勘違い記事では困るよネー=ω=)(=ω=ネー

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